会長就任についての想い
日本知能情報ファジィ学会 第18期会長/東京都立大学 中嶋 宏
去る6月の総会にて会長を拝命しました.重責に身が引き締まる想いです.微力ながらも本学会の繁栄に貢献できますよう精進してまいります.
私のファジィとの初めての出会いは,1980年代半ばの入社時でした.世間はいわゆる第二次人工知能ブームに沸いており,私も人工知能言語やエキスパートシステム構築ツールの開発に携わっておりました.そんなある時,実験室に置かれたFuzzy Computerと書かれたモノをたまたま目にしたのです.”Fuzzy”とは何か...そのときは気に留めることもありませんでした.しかし,それは山川烈先生が開発されたものと後にわかり,私もファジィ理論を基軸とした全社プロジェクトに加わることになったのです.当時は人工ニューラルネットワークの開発の後,故障診断エキスパートシステムやファジィデータベースなどファジィ理論を応用した多くのアプリケーション開発に携わりました.この経験を通じ,ファジィ理論をベースとした技術とツールが,非常に簡易ながらも人間の感覚や感性を強力に表現し,複雑かつ様々な問題を解決できることを知ったのです.その直後,1990年前後の日本は空前のファジィブームに沸きました.家電のみならず,ヘルスケア機器,各種産業応用,交通システム制御などあらゆる機器やシステムにファジィ理論の応用が進められたのです.
昨今の世の中は,新型コロナ,ウクライナ情勢,局所豪雨,生成AIなど,天候,地勢,経済,技術等々,さまざまな事柄において激しい変化を伴う不確実な状況にあります.まさにVUCA時代と呼ばれる所以であり,Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字からなる時代ということになります.これらの単語に代表される事象は,実は本学会が取り扱ってきたものばかりだといえます.今後もこのVUCA傾向はますます顕著になっていくことが予測されます.一方で,近年の基盤モデル,大規模言語モデルなど人工知能分野の技術発展には目を見張るものがあります.これらの技術と,人間の感覚や感性を強力に表現するファジィ理論との融合こそが真の解決策を提供できるものと信じています.
1965年のLotfi A. Zadeh教授のFuzzy Sets論文発表の直後,本邦では1972年にあいまいシステム研究会発足しました.1989年の日本ファジィ学会設立を経て学会は発展していきました.その後,本学会の様相も様変わりしているのはご存じのとおりです.特に近年は会員減少に苦しみ,前理事会までに財政面での健全化に真っ向から取り組まれ,着実な成果を上げてこられました.本学会を創造し,改革を重ね長年の活動を続けてこられた先人の先生方の意志を引き継ぐことには畏敬の念を感じずにはいられません.
今期理事会では,前期までの理事会にて取り組んでこられた事項を着実に継承すると共に時代の移り変わりに対応した下記の取り組みを行ってまいります.
1. 学会の顔とも言える会誌および会議(FSS,SCIS)の継続的な魅力度の向上
2. 学会活動の基盤である,財務体質の健全化の維持・規程等の整備の継続
3. より強い会員指向の実現に向けた会員コミュニケーションの充実
4. 学会の今後の在り方をデザインする将来構想の検討
5. 学会活動における多様性(Diversity),公平性(Equity),包括性(Inclusion)の推進
会員の皆様,諸先輩方からのご提案・ご指導・ご鞭撻いただき邁進してまいります.よろしくお願いいたします.